深呼吸する言葉・自然

本当の新年が来た。 「初春のお慶び」はこの季節から始まるのだ。 生活に沿ったカレンダーならば。

もっとキッパリと冬になれ。 東京の冬は曖昧で嫌い。 幼い頃、朝起きて洗面所に行くと、 洗面器の中の水は凍っていた。 漬け物を出すのは木樽の表に張った氷を割ってから。 冬は、冬であれ。

やっと来た、やっと来た。 冬らしい冬がやっと来た。 そんなことで安心する時代って、哀しい。

東京に住んで人生の半分以上が過ぎたが、 収穫期の風雨は気になる。 まだ覚えている土の臭い、熟した柿の色。 今年の実りに対する、汗と太陽と水の結晶が歪むようで。

ある日、突然冬が来た。 東京がいちばん美しい秋は、どこに? それともこれから? どっち側に転ぶかわからない男と女みたいな季節。

台風銀座に住んでいる、実感しきり。 気がかりなのは収穫直前の、今年の実り。

いっぱいに、いっぱいに、金木犀の薫りで酔わされる秋。 次に降る雪の辛さを忘れさせる、自然の企みか。

土と陽光と、水で立派に育ったバジルを オリーヴオイルでペーストに。 太陽の恵みを小分けして楽しむために。

自然の造り上げたものに、酔う。 そのどこかうつろな寂しげな立ち姿とは反対の、 禍々しいまでに自己主張する色。

家族に問題が起きて、不眠症になっても、 息子が家出して、身体が食べ物を受け付けなくなっても、 育てているバジルや青じそ、それに和綿は水を欲しがる。 もちろん黙って。こちらが気づくまで。

食べる人がいなくなったのに、 好物の青じそが無農薬で大豊作。 天ぷら、いくらでも作ってやれたのに。

極寒の地にに住む人の映像に、 灼熱のサバンナでヤギを追う少年の写真に、 「そんなところに住まなくても」 と、言う人がいる。 ココは台風銀座。 「そんな島国にへばりついて住まなくても」 と、世界では言われているだろう。

私の祈りに応えてくれるのは、 今はベランダの小さな畑だけだ。 彼らは言葉を持たないが、 静かなエネルギーに満ちて、ただ、そこにいる。

作付け農家が無くなって数粒の種だけが残っていた「和綿」。 「酔狂」と言われながら撒いては種を取り増やし、撒いては… 絶滅させない、意志。 その心意気に賛同して我が家のベランダに、 今年3本の和綿が蕾をつけている。

我が家の菜園は今年も危機に瀕している。 手入れは良いのに、東京は暑すぎるから。 10年後にはパイナップルでも育てるか?http://www.1okunin.net/index.php

自分で面倒を見たトマトが次々と赤くなってゆく。 実りを得るには、太陽と土と、水と、少しばかりの技術が必要だ。 人間もまた地球の一部なら、同じこと。

ベランダの四角く切り取られた土の上で、 8種類の野菜が育っている。 水やり、日当たり、害虫、肥料、全部「必要な条件」が違う。 人もまた、同じ箱の中でも。

人にとっては「実」だけが必要なのに、 何故そんなに美しく進化したのか。 恥じらいと強い意志を併せ持つ、 少女のような。

あなた方と話すから、私は自分をキープできているの。 広くもないベランダに、効率よく植えられた野菜達5種・ハーブ2種・趣味の綿花2種。 申し訳なさそうにミニ薔薇、ミニ鶏頭、アイビー。

お腹ではぐくんだ子が、 この夏は私の世話したミニトマトを食べる。 ベランダの初収穫1個目は、 3才の次男の胃袋への消え… いのちと命、つなげたのは私だと思ったら泣けてきた。

そしたら紫陽花を見るのに夢中で、 不愉快を忘れちゃうよ。 きっと。

暑くて当たり前なんだけど。 秋の実りをもたらすための通過点、夏。 それをしのぐ工夫で2000年も前から四季と共に生きてきたのに、 いつからこの国の人は文句を言うようになったんだろう。

あんまり快適に慣れすぎない、 それが我が家のモットー。 だからテレビはないし電子レンジもないし、 もちろんエアコンもない。 暑さ寒さを受け入れること。 自分を自然に解き放つこと。 エコロジーって個人単位ならカンタンじゃない?

きれいな顔して棘がある、それは一般論。 病気にかかりやすくて、 私の嫌いな虫が付きやすくて、 しょっちゅう剪定が必要。 滅多に笑わない、美人みたい。 ま、「仕事」が有能ならそれでもいいけどさ。

日に干した布団を取り込んでみて、「熱を逃してから畳まないと」と考えた。 岩盤浴のような布団の上で考える。 夏が、隣の駅くらいまで、来ている。

今ベランダで、ミニトマトが青い実をつけている。 食べ残したネギの根を鉢に植えたら、 新しい芽がドンドン伸びている。 日本の食糧自給率は、とても危ない。 せめてこの1.3×2.5mのベランダで 自給率アップに貢献しようか?

ああ、こころが疲れているんだなあ。 ふと見上げたら桜という桜は青葉になって この街に影を落としている。 今日まで気がつかないなんて、 ココロは何日眠っていたんだろう?

極端な自然主義は気味が悪い。 でも、今できることがあるならやっておこう。 やらなかったことを後悔するよりはマシだもの。 アースデイとは・・・ 4月22日は"地球の日

春からも、 日差しからも、 あなたの笑顔の残像からも遠ざかろうとしたの。 春を祝う気持ちに、今はなれないから。 でも外の春の力が私を引っ張る、 傍若無人に。

せめて、雪の残る山をみたい。

いくら何でも、 故郷が雪国でも、 もう道路に雪など無い季節なのです。 でも山は違う。 戸隠の雪が見たい 飯綱の雪が見たい 黒姫の、菅平の雪が見たい。 中央アルプスの雪が見たい。 雪の中に帰ってしまいたい。